第2章|波紋としての価値:チャート理論とアートの接点
- 岩川 幸揮
- 6月6日
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価値とは、どこから現れるのだろうか。価格という絶対的な数値ではなく、「波」としての運動、つまり観測される推移のなかに価値を見出す視点こそが、現代の芸術や建築、そしてチャート分析において決定的に重要になっている。
多重経路散乱場理論をチャートに応用するという視座は、「価格変動=波の干渉」として読み解く方法である。複数の高値・安値、時間軸上の遅延や跳躍、それらが生み出す相互作用の場としてチャートは存在する。その意味でチャート空間とは、波紋が重なり合う干渉場に他ならない。
この構造は、村上隆の「スーパーフラット」にも見出せる。彼の作品における反復的なモチーフ、そして彼自身が経営する「工場=複製の場」は、価値が唯一無二のものではなく、干渉とズレ、そして連続的反復の中から生成されることを物語っている。村上の工場において、アートはひとつの波であり、それが無数に投げられることで「価値の干渉」が起きるのだ。
また、ダミアン・ハーストの作品における金、薬、死といった象徴群は、波動としての価値を強烈に可視化する。彼の「死の輪郭」は、価格の絶頂ではなく、「観測された価値の強度」が波として顕現する場所である。これはエリオット波動における第五波のようなもので、観測が集中する頂点において、むしろその波は終息へと向かい始める。
つまり、アートとチャートにおける価値とは、「今、そこにある価格」ではない。観測されることによって生まれる波――すなわち「価値の波紋」である。そしてその波紋は、多重経路からの干渉によって複雑化し、予測不能な様相を帯びる。
この章では、「価格」ではなく「波」として価値を読み解く視点を提示した。芸術における再生産、反復、象徴の操作。チャートにおける跳躍、干渉、波の終息。それらはすべて、「空間」に見えて、実は「時間」の中に漂う波紋のようなものだ。

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