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第四章|建築のラグ:波尾の空間と価値の遅延

  • 岩川 幸揮
  • 6月24日
  • 読了時間: 2分


波は前だけを進んでいくのではない。それが通過した後にこそ、最も重要な「余韻」=波尾(リターディング・エコー)が残される。この波尾にこそ、建築と空間の本質的価値が宿っているのではないか?

1. ラグとは何か?

「ラグ」とは、トレンドの後を追って動き始める構造のことだ。チャートの世界では、遅れて反応する移動平均線やオシレーターにその役割がある。建築においてはどうだろうか?

それは、建築が時代の衝撃(波頭)を即座に表現できないことと似ている。一つの建築が完成するには設計・施工・運用と時間を要する。つまり、建築は常に「過去の波」を空間化している。

しかしそれは同時に、過去の波を持続可能な形で定着させる唯一のメディアとも言える。

2. 建築の中に現れる「波尾」

例えば、震災後に建てられた仮設住宅群。それは衝撃の即応ではなく、「傷跡の波紋」として空間に刻印されたものだ。あるいは、廃墟化したスタジアムや工場の空間。人の波が去った後の建築には、濃密な波尾の層が残る。

このラグに宿る“記憶の密度”は、トレンドそのものよりも強い力を持ちうる。

3. ラグは衰退ではない、進化である

建築の波尾は、しばしば「時代遅れ」として扱われる。だがそれは本当にそうか?それは、過去の衝撃を内包しつつ、新しい干渉を待つ準備された場なのではないか?

芸術作品もまた、評価されるのは完成直後ではなく、ラグのなかで価値が浮上することがある。同様に、建築も「完成した瞬間」が最高潮なのではなく、波尾として時間の中で干渉し続けることができるかどうかに、その構造的本質がある。

 
 
 

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