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第二章|震源地と波紋:時間的因果の非対称性

  • 岩川 幸揮
  • 6月19日
  • 読了時間: 2分


「波紋が広がる」という直感は、時間の線形的な理解に基づいている。衝撃(震源地)がまず発生し、それが徐々に空間へと伝播していく。しかし、波の構造は非線形的であり、因果関係もまた一方向とは限らない

ここで問うべきは、「震源地は本当に“始まり”なのか?」ということだ。

ある価格がチャート上で急上昇したとする。一般的にはそれを「出来事の結果」として捉えるが、波紋理論ではむしろその上昇がすでに観測されつつある未来の波の一部であり、「まだ起きていない震源地の前兆」である可能性すらある。

同じことが建築にも言える。

建物が“完成”する時、それは設計図に描かれた構想の「実現」ではなく、空間的な波紋が一つのピークに到達した瞬間である。そしてその完成形は、未来の人間活動や環境要因の変動によって、すでに“干渉”されている。

つまり、建築空間は未来の波に引き寄せられるように形成されるのであり、過去の理念や構想だけでつくられているわけではない。

波紋における“遅れて到達するもの”

波には、波頭と波尾がある。重要なのは、波尾にこそ真の情報が含まれているという事実だ。先行する波頭は、あくまで先触れにすぎない。建築もまた、構想段階よりも、使用され、老朽し、再評価される過程のなかで初めてその“構造的意味”を露わにする。

芸術においても同じことが言える。

ジョン・ケージの《4分33秒》は、作品発表時の波頭があまりに衝撃的だったが、真の意味が理解されたのは数十年後の波尾である。つまり、波の価値は一度目では測れない。波紋は時間をかけてじわじわと空間や社会に染み込む。

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