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第3章|波としての空間:建築の解体と時間の干渉

  • 岩川 幸揮
  • 6月7日
  • 読了時間: 2分

建築とは「構造」だろうか?少なくとも20世紀的モダニズムにおいて、建築は秩序・比例・構造といった理念に支えられていた。だがその理念は、磯崎新によって根底から解体される。「建築とは構造である」という通念に対し、磯崎は「非構造の構造」という逆説を突きつけた。

彼の思考は、建築を時間的・文化的・制度的文脈の中で読み解こうとする。《つくばセンタービル》のように、いくつもの形式や時間軸を持つ建築群は、波の干渉のように揺れながら、確定されない構造として空間を編み出す。ここにおいて、建築とはもはや「かたち」ではなく、「干渉場」なのだ。

この視点は、ジャック・デリダとピーター・アイゼンマンの対話においてさらに理論化される。デリダが語る「差延(ディフェランス)」という概念は、意味が常にズレ続け、決して安定しない状態を指す。それはアイゼンマンによって建築の形式に翻訳され、構造の内部にある「ズレ」として可視化された。構造はもはや整合性ではなく、意図的な非連続性を孕んだ「構造の痕跡」へと変質していく。

ここでチャート空間論がふたたび姿を現す。建築という空間が「波としての時間的干渉」であるならば、チャート上に描かれる波形とまったく同様に、建築もまた「現れては消え、反響しては歪む」存在となる。例えば、多重経路散乱場理論においては、ある波の強度はその周辺の物体の配置や反射によって変調される。これは建築における「コンテクスト」と完全に重なる。

建築を「場」ではなく「波」として捉えることで、我々は初めて、空間が絶えず揺らぎ、観測されるたびに異なる姿を見せることを理解できる。建築の意味も、価値も、形式も、全ては「干渉としての時間」によって構築されている。それは「完成された建築」ではなく、「浮かび上がる場=波」として出現するものなのだ。

 
 
 

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