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第6章|奇跡とはなにか:時間の推移と価値の浮上

  • 岩川 幸揮
  • 6月10日
  • 読了時間: 2分

波は、決して完全に予測できない。しかし波には「かたち」がある。そのかたちは、過去の干渉、未来の余韻、現在の振幅を含んだ一瞬の凍結であり、そこに「奇跡」が宿る。

チャート空間論において、「価値」は単なる価格の上昇や下降ではない。それは時間の中で繰り返される干渉と蓄積、すなわち「波紋の層構造」によって立ち上がる。この波紋は、建築における光と影、構造と非構造、使用と未使用、観測と不可視といった対立項を飲み込みながら、時間の推移と共鳴していく。

奇跡とは、ある波の層が別の波の層と共振した瞬間に起こる現象だ。それは意図された設計ではなく、時間の中で訪れる「構造のゆらぎ」と「観測者の感受性」の交差点においてのみ立ち現れる。

たとえば、誰も見ていなかった彫刻が、ある日突然、光の入り方や観客の配置によって異様な存在感を放つ瞬間。あるいは、廃墟となった建築が、朽ち果てた時間を背負いながら突如として「美しさ」として観測されるとき。その「価値の浮上」は、時間という流体の中でのみ可能な、偶然と構造の接触によって生まれる。

だからこそ、空間における真の価値とは、比例や整合ではなく、時間の厚みにおいて浮上する「観測の奇跡」である。チャート空間論は、建築や芸術をこのような「時間に潜伏する波」として読み替える。価格のように上下するだけでなく、観測者の視点や時間の変位によって立ち現れる波、それが「価値」であり、「空間」である。

波は常にそこにある。しかし、それが「奇跡」として浮上するかどうかは、ただ一つ、時間をかけて観測する意志にかかっている。

 
 
 

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