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終章|ポスト比例時代の空間:建築・芸術・理論の交差にて

  • 岩川 幸揮
  • 6月11日
  • 読了時間: 2分

建築を「建てる」という動詞で捉える時代は、すでに過去のものとなりつつある。いま私たちに求められているのは、「響かせる」という新たな構築の在り方だ。比例、スケール、中心、均整。古典的な空間の語彙は、かつて整った秩序と支配のもとで栄えたが、いまそれらは多義的な意味を孕みながら、解体と再構成のフェーズにある。

「比例」という名の美学は、常に中心を持ち、安定を求め、正しさを保証してきた。しかし波は、中心を持たない。フラクタルな構造において、どこから見ても同じでありながら、どこにも全体がない。エリオット波動や多重経路散乱場理論における波の構造がそうであるように、空間もまた一方向的な秩序に従わない「観測の構造」へと変貌している。

この構造変化の兆候は、すでに芸術と建築の領野で現れている。ステラやスミッソンの波のかたち、ポロックの重力、ケージの沈黙、磯崎の非構造。そしてリヒターの解像度、村上の複製、ハーストの波動。それらはすべて、「比例の外」に生きる作品群である。それらは建てられたのではなく、干渉され、観測され、現象として立ち上がってきた

このようにして、空間は比例から波へ、構築から共鳴へ、形式から観測へと軸足を移してきた。そこにおいて建築はもはや物質的な囲いではなく、価値が浮上するための場、波が記録される膜であり、チャートのような「可視化された時空の軌跡」である。

私たちは「波としての構築」という、これまでとは全く異なる時代の入り口に立っている。そこでは建築も芸術も理論も、互いに干渉し合い、フラクタルに展開する複数の視点を生み出していく。

比例の時代の終焉とともに、ポスト比例時代の建築とは、観測される波であり、記録される価値であり、時間の中で浮かび上がる奇跡の場である。

 
 
 

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