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不在と再演

  • 岩川 幸揮
  • 5月21日
  • 読了時間: 2分

第3章|都市・建物・歴史の不在と再演


― 名もなき空間への移植としての建築

──建築は、失われてなお建築でありうる

都市が喪失されたとき、私たちはその「跡地」に何を見出すのか。瓦礫、廃墟、断片的な記憶、スキャンデータ、再現された模型。そこに建物は存在しない。だが、「建築」はなお潜在している。

建築とは、建物の有無に還元されるものではない。むしろそれは、場所や物質を超えて、構造や関係性として現前する。再演される建築は、単なる複製ではなく、構想の移植である。それは喪失の記憶を起点としながらも、名もなき空間に新たに根を張る建築的行為なのだ。

建物の喪失が建築の終焉を意味するのではない。むしろ、建物が存在しない空間にこそ、建築は静かに移植されうる。それは地形や機能に束縛されることなく、状況に応答し、変化を受け入れる柔軟性を備えている。

流動性を持つ建築こそが、未来の建築である。

壊すことを肯定するのではない。壊れることに抗う意志こそが建築には求められる。しかし同時に、壊れることを拒むあまりに、あたかも永遠であるかのようなイリュージョンをまとうことも、建築のひとつの態度である。それは芸術作品のように自己を装い、時間を超えて生き延びようとする建築の策略である。

建築とは、不在から始まる。建物の失われた空間において、建築は新たな物語として再び語られる。そしてその語りは、模型や言葉、断片や記憶を媒介にして、再び空間を構成する試みとなる。

建築とは、建てられることのない状態においてなお、最も建築的でありうるのだ。

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