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第1章|モデュロールを波として読む:振動する身体と空間

  • 岩川 幸揮
  • 5月29日
  • 読了時間: 2分

建築において「比例」は、空間の秩序を与えるための最も古典的な道具である。それは美や安定、そして調和を保証するものとして尊ばれてきた。コルビュジエの「モデュロール」はその集大成とも言えるものであり、黄金比と人間の身体寸法を重ね合わせることで、建築に普遍性を与えようとした試みだった。

だが果たして「モデュロール」は、本当に普遍的だったのだろうか。人間の身体は静的ではない。歩き、呼吸し、思考し、衝動的に動き出す――つまり、身体はつねに振動している。これは建築における「空間の受容体」が、固定的なものではなく、波として存在していることを示している。

この章で取り上げたいのは、モデュロールを「比例の体系」としてではなく、「振動の位相」として読み直すことである。黄金比という絶対的な数値ではなく、その背後にある“波”の存在――すなわち、人間が持つリズムや周期性のような波動的な原理に着目することで、建築空間そのものを「波の投影」として捉え直すことが可能になる。

こうした視点は、近代建築が築こうとした秩序とは異なる、新たな空間観を導く。建築が人間の波動を受け取る受容体であるならば、その設計はもはや静的な幾何学ではなく、動的な波の干渉場を意識したものになるだろう。

この読み替えが重要なのは、それが比例という信仰を破壊するのではなく、むしろ比例の背後にある“運動”や“揺らぎ”を引き出すからである。コルビュジエが信じた比例の力は、実は波紋のように拡がり、時には干渉し合いながら、空間の中にリズムを刻んでいたのかもしれない。

モデュロールは死んでいない。ただし、それは比例という名の神話としてではなく、波として蘇るのである。

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