第2章|チャート空間論:波動としての秩序と干渉
- 岩川 幸揮
- 5月30日
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株価チャートや価格の推移を示すグラフは、建築とは遠く離れた領域のもののように見えるかもしれない。だが、それは果たして本当にそうだろうか。チャートを空間として読むとき、そこには構造があり、リズムがあり、そして何より「比例」が存在している。価格は乱数のようでありながら、ある一定の秩序に従って動いているように見える。その秩序は波動的であり、フラクタル構造を持ち、黄金比や1.618といった比率に従う形で変化を示すことが多い。
こうしたチャートの波動的理解の代表的理論が「エリオット波動論」である。これは、相場の動きが五つの「推進波」と三つの「修正波」から成るという仮説であり、それぞれの波の長さや重なりには一定の規則性があるとされている。興味深いのは、この波動構造が単なる価格の動きにとどまらず、観測者である人間の心理や群衆の無意識とも強く結びついている点である。
この「波動」的空間としてのチャートを、建築の構造と重ねてみると何が見えてくるだろうか。コルビュジエの比例が、あくまで静的な秩序を目指していたとすれば、チャートにおける比例は「動的な秩序」である。つまり、比例は絶対的なものではなく、常に変動し、ずれ、また新たな関係性を生み出す場として機能している。
チャート空間における「水平線」は、ただのラインではなく、波の断面――つまり空間の一時的な固定点であり、時間軸に対する構造の“観測の痕跡”である。価格が跳ね返る「節目」は、空間における共振点であり、複数の波が交差し干渉する点でもある。それは建築において、空間と身体、光と構造、意味と使用の「節目」として解釈できる。
フラクタル構造とは、部分が全体を写し取り、全体が部分に還元される構造である。建築における細部と全体、チャートにおける短期と長期の時間スケール――これらが自己相似的であるという点で、両者は明確に接続する。
ここで重要なのは、「比例」はもはや絶対的な比率ではなく、関係性の中で生成され、消滅する波の位相に過ぎないという視点である。つまり空間とは、安定した図形ではなく、常に変化し干渉し合う波動の場――多重干渉場としての構築体なのである。
この理解は建築に新たな視座を与える。空間は固定されたものではなく、観測されることによって形を得る波であり、建築とはその波を「空間として固定する技術」だったのではないか。そして今、私たちは固定ではなく「共鳴」のために建築を使おうとしている。
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