top of page

第4章|推進五波とモダニズム:理解されなかった修正波

  • 岩川 幸揮
  • 6月1日
  • 読了時間: 2分

近代建築の五原則――「ピロティ」「自由な平面」「自由な立面」「水平連続窓」「屋上庭園」は、コルビュジエが確立した建築理論の中核を成すものとして知られている。それらは合理的構造のもとに設計された明快な空間構成を示しており、モダニズムの精神を体現する典型的な形態である。しかし、それが建築理論の「推進五波」的なものであったとすればどうだろう。ここでは、エリオット波動理論における“推進五波”と“修正三波”の構造を鍵に、近代建築の流れを読み解く。

推進五波は、明確な方向性と勢いを持った運動であり、モダニズム建築が体現していたのもまさにそのような「直進性」と「力強さ」だった。それは、比例と機能性への強い信仰、そして未来への明確なヴィジョンによって導かれていた。比例とはすなわち秩序であり、人間的尺度の合理性の象徴であった。

しかし、波は推進だけで終わらない。エリオット波動が示すように、推進の後には必ず「修正波」が訪れる。ここで重要なのは、この修正波は単なる後退ではなく、波全体の構造にとって必要不可欠な調整の位相であるという点である。ポストモダン、そしてデコンストラクション以後の建築は、この“修正三波”の時期に入ったものと考えることができる。ところがこの修正波において、建築は確かな方向性を失い、“漂流”することとなった。

この漂流とは、意味の喪失ではなく、あらゆる意味が交差し、複数化する場への変化を意味する。エリオット波動における修正波は、チャートの流れの中で“止まる”のではなく、“空間を漂う”ことで、新たな視点や次の構造を模索する時間帯である。そしてこれは、比例の「中心性」や「普遍性」が疑われ始める時期でもある。比例という幻想が揺らぎ始め、波の全体構造が徐々に見えてくる。

比例が終わるということは、比例の時代が失われることではない。それは、比例を包含するようなより広い空間認識の枠組みが現れつつあることを意味する。建築がその軌道を再調整し、次の段階へと波を進めるために、この修正波の位相が必要だったのだ。

最新記事

すべて表示
第三章|波紋のレイヤー:過去・現在・未来の干渉場

波は単独で存在しない。ひとつの波は、他の波と出会い、干渉し、重なり、あるいは消し合う。この干渉が生まれる場こそが、私たちが「空間」や「時間」と呼んでいるものの実体である。 ここで注目すべきは、 波は常に「複数の時間軸」にまたがって存在している という事実だ。 1....

 
 
 
第二章|震源地と波紋:時間的因果の非対称性

「波紋が広がる」という直感は、時間の線形的な理解に基づいている。衝撃(震源地)がまず発生し、それが徐々に空間へと伝播していく。しかし、 波の構造は非線形的であり、因果関係もまた一方向とは限らない 。 ここで問うべきは、「震源地は本当に“始まり”なのか?」ということだ。...

 
 
 
第一章|波は過去ではなく未来を語る

私たちはしばしば「波紋が広がっている」と口にする。何か出来事が起きたとき、その影響がじわじわと拡散していく様子を、あたかも池に落ちた一滴の水が波となるように捉える。この比喩は美しい。しかしこの「広がり」は、あくまで視覚的な印象に過ぎない。...

 
 
 

コメント


ロゴ-1.png
bottom of page